泡の詰まったボトルほど、華やかなスタイルのワインはありません。お祝い気分を盛り上げ、楽しい時間を約束してくれるフランス産スパークリングワイン。もっとも、すべてのスパークリングワインが同じように造られているわけではありません。
スパークリングワインにはさまざまな製法があります。今回は、お祝いに華を添えるシャンパーニュの伝統的な製法「メトード・トラディショネル」について、知っておくべきことを詳しく解説します。フルートグラスを用意して、お読みください。
メトード・トラディショネルとは
「メトード・トラディショネル」と呼ばれる伝統的製法は、瓶内二次発酵を必要とするスパークリングワインの醸造に用いられる工程です。
メトード・トラディショネルの別名
「メトード・シャンプノワーズ(シャンパーニュ方式)」とも呼ばれますが、「メトード・トラディショネル(伝統的製法)」という呼び名のほうが一般的です。ちなみに、スペインでは「método tradicional」、イタリアでは「metodo tradizionale」と呼ばれています。
メトード・トラディショネルの工程
メトード・トラディショネルでは、一次発酵、二次発酵、熟成、ルミュアージュ、デゴルジュマン、ドサージュという6つの工程を経て醸造が完了します。各工程について説明しましょう。
一次発酵
収穫したブドウは、スティルワインと同じように一次発酵させます。酵母(天然酵母または培養酵母)が糖分をアルコールに変えていき、糖分がなくなると発酵は終了します。
二次発酵
スパークリングワインを製造するには概して二次発酵が必要です。これがスパークリングワインの醸造とスティルワインの醸造との違いになります。一次発酵後、スティルワインをクラウンキャップで瓶詰めし、最低限の熟成を経て、糖分、酵母、スティルワインの混合物(「リキュール・ド・ティラージュ」と呼ばれる)を加えます。この混合物が二次発酵を引き起こします。
発酵によって、アルコールのみならず、二酸化炭素も副産物として生じます。この二次発酵は瓶内で行われるため、二酸化炭素は行き場を失い、瓶内に閉じ込められてしまいます。こうして泡が形成され、保たれるのです。
熟成
二次発酵が終わると、澱(酵母の残骸)をそのままにした状態で、所定期間熟成させます。ほとんどのアペラシオンでは、一定以上のシュールリー熟成期間を経てから販売します。例えば、ノンヴィンテージのシャンパーニュは15カ月以上熟成させます。
ルミュアージュ(動瓶)
熟成が終わると、ルミュアージュと呼ばれる工程で、濁った沈殿物(澱)を集めます(この澱は最終的にボトルから取り除きます)。ボトルをやや斜めに寝かせて熟成させながら、毎日ボトルをゆっくりと少しずつ回転させることで、時間をかけて沈殿物を瓶口に集めます。
デゴルジュマン(澱抜き)
沈殿物が瓶口に集まったら、ボトルの先端を凍らせて沈殿物を固め、クラウンキャップを外して凍った澱を弾き出させます。この手法を開発したのは、有名なヴーヴ・クリコのマダム・クリコだと言われています。デゴルジュマンの手法が開発される前は、ボトルの中に沈殿物が残っていたため、メトード・トラディショネルで製造されるスパークリングワインのほとんどが透明ではなく濁っていました。
ドサージュ(補糖)
デゴルジュマンを終えるとすぐに、「リキュール・デ・エクスペディション」(糖分を混ぜたリキュール)を少量加えて仕上げます。このリキュールの糖度によって、シャンパーニュの最終的な甘さが決まります。ここで糖分を加えない場合は、「ナチュール」または「ノン・ドゼ」(ドサージュなし/ゼロ)と呼ばれるスパークリングワインになります。シャンパーニュでは、極甘口が「ドゥー」、次いでドゥミ・セック(甘口)、「セック」(やや甘口)、「ブリュット」、「エクストラ・ブリュット」、「ブリュット・ナチュール」(超辛口)と表示されます。
シャンパーニュ以外でメトード・トラディショネルを採用しているワイン
メトード・トラディショネルは、フランスで生産されるほぼすべてのスパークリングワインに採用されています。シャンパーニュ地方以外で生産されるものは「クレマン」と呼ばれています。クレマンの銘醸地には、ロワール、ボルドー、ブルゴーニュ、アルザス、ジュラなどがあります。なお、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエのみを使用するシャンパーニュとは異なり、クレマンは産地によってさまざまなブドウ品種を使用することができます。
フランス南部のラングドック地方にあるリムーというアペラシオンも、メトード・トラディショネルで製造された伝統的なスパークリングワイン「ブランケット・ド・リムー」の産地として高い評価を得ています。ブランケット(オック地方の方言で「小さな白」の意味)には、モーザックを90%以上使用しなければなりません。残りの10%はシャルドネとシュナン・ブランを使用することが認められています。このようにモーザックの比率を高くすることが義務付けられているのは、1990年に新たなクレマン・ド・リムーAOCが導入され、地域の伝統を守るための規定が設けられたからです。
メトード・トラディショネル発祥の地として知られているリムーは、伝統的な製法を採用したフランスのスパークリングワイン生産において特に重要な位置を占めています。世間一般の通念とは異なり、メトード・トラディショネル(シャンプノワーズ)はシャンパーニュ地方で生まれた製法ではありません。
メトード・トラディショネルの生みの親
詳しいことは分かっていませんが、言い伝えによれば、修道士ドン・ピエール・ペリニヨン(そう、あのドン・ペリニヨンです)が17世紀にリムーでこの製法を発見したそうです。その後、彼は北上してシャンパーニュ地方にメトード・トラディショネルを伝え、歓迎されました。当時は泡がワインの欠点と見なされていましたが、シャンパーニュ地方ではすぐにスパークリングワインの生産を奨励するようになりました。「早く来い、私は今、星を味わっているのだ」という言葉を聞いたことはありませんか?そう、この名言を残したのもドン・ペリニヨンなのです。