愛情がたっぷり詰まったフレッシュな山羊乳チーズ

ロワール地方にあるアンジュー・ビケット農場は、家族経営の小さな農場。ここでは、ガエタン・ショーヴェ氏が130頭以上の山羊を飼育しています。活発で可愛らしく、温和な性格の山羊は、この農場で手作業で愛情を込めて作られる生産品、フレッシュタイプの山羊乳チーズの鍵となる動物です。

Goat Cheese

ショーヴェ氏のほほ笑みには、ついこちらもほほ笑んでしまうような力があります。ブルターニュ地方の古都ナントの北東にあるアンジュー・ビケット農場。その共同経営者である同氏は、エメラルドグリーンの葉がきらめく木の下ですっかりくつろいでいます。

 

幸せな山羊が高品質を生む 

彼の周りには小さな茶色の山羊の群れがいます。いずれもつややかな毛並みで、鳴き声をあげたり、仲間とコミュニケーションを取ったり、幸せで健康そうに見えます。ショーヴェ氏は身体をかがめて、近くの子山羊の頭を優しくなでました。ショーヴェ氏は、これこそが生産品の品質の鍵になると説明します。木の枝を下に引っ張ってやると、山羊たちが一目散に近寄ってきて、普段は手の届かない葉をジャンプしながら食べ始めました。これは、山羊のために作った放牧コースの一つだそうです。

「山羊のためにたくさんの木陰がある場所を作ることが目的でした。山羊たちはここで毎日を過ごしています。山羊は建物にも入れますし、自由に動き回って、のんびりと暮らしています。彼らの幸せがとても重要なのです。」(ショーヴェ氏)

幸せな山羊から良質の乳がとれると、ショーヴェ氏は言います。 

「私たちは乳が凝固しやすく、チーズ作りに適したフランス・アルプス地方原産のアルパイン種を選びました。アルパイン種の乳は脂肪分とタンパク質のバランスが良いのです。乳の脂肪分は風味を与え、タンパク質は液体である乳を液体から固体に凝固し、ヨーグルトやチーズへと作り変えます。」(ショーヴェ氏)

フランス農業省によると、2022年における同国の山羊乳生産量は5億2,700万リットルと、前年から1.7%増加しました。山羊乳の生産は2018年から上昇傾向にあり、高品質な製品作りにより、山羊乳チーズの業界全体が着実に成長していることを示しています。 

ショーヴェ氏の農場では、飼料の栄養面にもこだわっています。山羊には農場で生産された干し草をやるため、飼料にでんぷんは含まれません。これにより乳とチーズの品質が向上し、独特の特性がもたらされます。 

ミルクから… 

アンジュー・ビケット農場の朝は早く、毎日朝6時には山羊を搾乳場に移動させます。搾乳は早朝と正午、1日に2回行われます。

「搾乳時は、山羊の観察をする時間でもあります。切り傷やあざなどのけがや病気がないか、確認します。これにかなり時間をかけています。」(ショーヴェ氏) 

アンジュー・ビケット農場では10万リットルの新鮮な山羊乳を生産しています。フランスは世界最大の山羊乳チーズ輸出国で、2023年における山羊乳の生産量は7億1,400万リットルにのぼりました。また、フランスはシェーブルチーズの生産量でも世界一です。2022年の生産量は12万2,000トン超となりました。国内における山羊酪農家の戸数は6,000戸ですが、そのうちアンジュー・ビケット農場のように現地でチーズも生産しているのは半分程度です。

 

…チーズへ  

山羊乳チーズを1キロ作るには、約6.5リットルの生乳が必要です。搾乳した生乳は集められ、培養菌が添加されます。

「パン職人にとっての天然酵母と同じように、私たちも独自の培養菌を持っています。培養菌を入れることにより、カイヤージュ(caillage)、つまり凝乳が始まります。この工程は約20時間続き、その後固まったミルクを型に移し入れ、塩を加え、さらに24時間置きます。その後、ケーブ(乾燥・熟成庫)で水分を抜きます。」(ショーヴェ氏) 

このケーブの中で、アフィナージュ(affinage)と呼ばれる熟成が始まります。この工程が、チーズのさまざまな風味を引き出します。ショーヴェ氏のケーブには、熟成段階の異なるシェーブルチーズが所狭しと並べられ、それぞれに日付が付けられています。チーズが熟成するとケーブから出され、新たに出来立てのフレッシュチーズが運び込まれます。 

…To cheese  

To make a single kilogram of goat cheese, it requires an average of 6.5 litres of fresh milk. Once the team has collected the milk, cultures are added directly to the milk. 

“Like yeast to the baker, we have our own cultures,” says Gaëtant. “This begins the curdling process, in French called the ‘caillage.’ This process lasts about twenty hours, and once ready, we flip them in their moulds, salt them, and leave them for another 24 hours. From then, they’re ready to dry in our drying caves.”  

Within these ‘caves’ is where the ‘affinage’ process begins, called ‘ripening’ or ‘maturing’ in English. This process brings out the different flavours in cheese. Gaëtant’s cave is filled with chèvres of varying stages of maturation, each labelled with a different date. Once cheeses are deemed ready, they are moved out from the cave and fresh cheese moved in to replace them. 

ショーヴェ氏は「チーズ作りの仕事の中で一番楽しいのは試食です」といたずらっぽく言いながら、熟成させた丸いシェーブルチーズを、手際よく、でもそっと切り分け、柔らかく白い中心部を見せてくれました。チーズの出来を知るための方法はたった一つ。一口かじって、消費者が求める食感や風味になったかどうかを確認します。

アンジュー・ビケット農場では、たいていの場合、良い品質で仕上がるとのこと。ショーヴェ氏率いる生産チームは、山羊の飼育から搾乳、発酵、熟成、さらには販売まで、全ての工程を管理しています。独自のノウハウ蓄積に成功した同農場では、現在、増産と商品多角化を目指し、チーズ製造施設の拡張を進めています。

「もちろん、当農場の成功の鍵はプロセス全体を管理できていることです。この仕事で私が最も重視しているのは、生乳の生産から、チーズ加工、製品販売まで、全てを管理することです。」(ショーヴェ氏)

 

フランスの農場から世界の食卓へ   

フランスは世界有数の山羊乳チーズ生産・消費国です。フランスでは85.1%の世帯が山羊乳チーズを購入しており、生産量の74%が国内消費向けです。山羊乳チーズはどの家庭でも使い勝手の良い食材です。

一番シンプルなのは、もちろんホールのチーズとシャルキュトリーの盛り合わせです。チーズ専門家のファブリス・ゲプネル(Fabrice Gepner)は、どんなチーズもワインと合わせて楽しむのがお薦めと言います。一般的には、チーズは白ワインとの相性が良いのですが、選択肢が多過ぎて迷ってしまうのであれば、まずはロワール産の白から始めてみましょう。
「ロワール産は、たいていのチーズとよく合います。」(ゲプネル氏)

山羊乳チーズを使った料理を作ってみたいなら、シンプルなバゲットサンドはいかが?サントモール・ド・トゥーレーヌのような柔らかでマイルドなシェーブルチーズに、鴨胸肉スモークのスライス、甘い緑ぶどうの小片を合わせると、南西フランスを思い出させる風味となります。同様に、甘辛風味のスナックとして、甘いリムーザン産りんごとフレッシュなシェーブルチーズを詰めたサクサクのパイ意外と簡単に作れます。また、ミニトマトとフレッシュゴート・チーズのタルトタタンは、目で見ても食べても楽しい一皿です。食べる直前にまろやかな蜂蜜を少量垂らすと、病みつきになること間違いなしです。

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