フランスのなだらかな田園風景と共に長い間生き続けてきた伝統食、「ジャンボン・ド・バイヨンヌ(バイヨンヌ産生ハム)」。この美味なるハムは、フランスの年代記にも登場するほど、歴史に根ざした食であり、古くはルイ14世からも愛されました。そして、食の枠にとどまらず、フランス文化の象徴の一つ、美食の遺産として、何世紀にもわたり育まれてきました。

Bayonne Ham producer

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生ハム造り一筋40

ランド地方の中央部にある小さな町、アジェモーにはバイエ社の生ハム工場があります。バイエは、「ジャンボン・ド・バイヨンヌ」の伝統製法を古くから守リ続けるメーカーと自負し、40年にわたり、生ハム造りに真剣に取り組んできました。同社は完璧を追求する姿勢が評価され、品質の高さで多くの受賞歴もあります。今回は、工場長のフレデリック・キャレール氏に工場を案内していただきました。
キャレール工場長は、フランスの食の傑作ともいえるバイヨンヌ産生ハムが生み出されるまでの秘密について、深い知識で説明してくれました。

品質保証の現場へ

バイヨンヌ産生ハムは、製品の原産地を保証する品質認証マークである「保護地理的表示(IGP)」の認定を受けています。「ジャンボン・ド・バイヨンヌIGP」は、製品の一つ一つが、壮麗なピレネー山脈と大西洋の間を流れるアドゥール川流域の特定の地域で生産されたことを保証するものです。


この認証は単なる形式的なものではなく、品質と真正性への真摯な取り組みに対して与えられます。製品の一つ一つが、代々受け継がれてきた昔ながらの製法を忠実に守って造られています。生ハム造りの要となるのは、サリスドベアルヌ産の塩です。この塩は、ミネラル分やオリゴ元素が豊富なことで知られています。これは生ハムの旨味を引き立てるだけでなく、保存工程においても欠かせない、特別な塩です。

塩漬けは重要な工程

バイヨンヌ産生ハムは、正確さと手間をかけた芸術ともいえる製法で造られます。その工程には、いくつか重要な段階があります。まずは、素材選びです。これはフランス南西部の22県にまたがる指定地域産の高品質な豚の後ろ脚部位(もも肉)のみが使われます。肉質は、特に脂肪分が最も重視されます。肉の脂肪は生ハムに繊細で濃厚な旨味を与えます。次に、厳選されたもも肉をトリムし、サリスドベアルヌ産のブランド塩を使って、巧みに塩漬けを行います。


フレデリック・キャレール氏が、塩漬け工程に対するバイエの考え方を説明してくれました。「塩漬けには2種類の方法があります。一つは、塩を溶かしたソミュール液に肉をまるごと浸す方法です。もう一つは、手作業で肉に塩をすりこんでいく方法です。当社はこちらの方法で造っています。この製法なら、肉に塩を優しくもみ込めるので、塩分を均一に行き渡らせることができ、過剰な塩入れは起こりません。また、肉の血合いを取り除き、柔らかくすることができます」。 このように入念に手間をかけることによって、バイヨンヌ産生ハムの特別な味わいが作られるのです。

製造工程を極める

塩漬けの後は、塩味が回るよう肉をしばらく休ませます。そして、表面をきれいに洗浄し、非常に重要な乾燥工程に入ります。 最後に、厳格に管理された条件下で熟成を行います。この工程により、旨味と食感の完璧なバランスが生まれます。長期間の熟成は、米粉とラードを練り合わせたものを肉に塗ります。この作業により、特徴的な旨味が出ます。バイエ社の工場では、この工程をすべて極め、すべての工程で品質チェックを実施しています。

「私は毎日最低2回はハムの熟成状況をチェックしています。特に重要なのは香りのモニタリングです。生ハムは熟成のそれぞれの段階で香りが変わるため、エイジングが適切に進行しているかどうかが分かります。毎日、観察し、触って、香りを確認し、完璧な製品ができるように配慮しています」。(キャレール氏)

バイエ社は12カ月もの熟成期間を設けています。真の旨味を出すには長い時間がかかると考えており、それは品質へのこだわりの証でもあります。

 

バイヨンヌ産生ハムの見分け方

ジャンボン・ド・バイヨンヌは、個人の好みに合った製品を選ぶのが一番ですが、本物には、バスク語で「ローブリュー」と呼ばれるバスク十字のマークが付いています。購入後は、自宅で適切に保存して、生ハムの味わいと食感を保つ必要があります。

バイヨンヌ産生ハムの賞味期限は長く、未開封で最適な保存状態であれば、3カ月は保ちます。気温19℃前後の涼しい場所で、全体を布に包んで保管するのが理想的です。さらに保存性を高めるには、肉の切り口にオリーブオイルを塗り、その上から食品保存フィルムを貼ると、生ハムの乾燥を防ぎ、旨味と食感を失わず最高の状態を保つことができます。

バイヨンヌ産生ハムの楽しみ方

バイヨンヌ産生ハムは、さまざまな方法で楽しむことができます。最もシンプルなのは、そのまま味わうこと。甘みと旨味が複雑に絡み合い、味覚を喜ばせます。生ハムの旨味にぴったり合うメロンやイチジクと合わせるなど、人気の前菜でもあります。キャレール氏も、ジャンボン・ド・バイヨンヌは前菜としていただくのが最高とお勧めしてくれました。「薄く切って盛り付けるだけで、素晴らしい前菜になります。地元産の雌子羊チーズと合わせても楽しいです」。

バイヨンヌ産生ハムには、さらなる食べ方があります!バイヨンヌ産生ハムでカマルグ産の米、パルメザンチーズを巻いた、巻き寿司はいかがですか?
また、暑い夏の日には、メロンにバイヨンヌ産生ハム、ブルーチーズを合わせたサラダもいいですね。

キャレール氏からは、お祖母さま直伝のレシピも教えてもらいました。生ハムを厚めに切ってソテーし、そこから出た脂で卵を焼き、トマト、ペッパー、玉ねぎで作るバスク風ラタトゥイユ(ピペラード)を添えていただくそうです。この料理は、地元の伝統食文化を象徴した組み合わせですね。

バイヨンヌ産生ハムの由来とは

ジャンボン・ド・バイヨンヌは、伝説や地域の言い伝えにも多く登場します。ある言い伝えでは、塩泉に落ちてしまった野生のイノシシがそのまま保存されたことから、現在のバイヨンヌ産生ハムの製法が発見されたという言い伝えです。フランスの美食の最高峰の由来は、なんと偶然の産物であったというお話ですが、昔から生ハムそのものと同様に、人々によって誇らしく語り継がれ、楽しまれたストーリーです。

 

深く根付いたフランスのアイデンティティー

今は目まぐるしく変わり、新しいものが古いものに取ってかわる世の中ですが、バイヨンヌ産生ハムは依然として伝統の守り手であり、「長い時間をかけて正しいことをする」ということの大事さを思い出させてくれます。それは、単なる食品の伝承だけでなく、生活様式や歴史の1ページ、文化的アイデンティティーの一部として生き続ける遺産でもあります。

今度、バイヨンヌ産生ハムを食べるときは、単なる肉製品ではなく、その背後の歴史やストーリーがあることを思い出してください。

・・・ジャンボン・ド・バイヨンヌは、それを食べる者を過去へ、熟練の腕を持つ職人へ、アドゥール川流域の肥沃な土地、そして国家という共通の歴史へと誘う、食の体験そのものなのです。

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