あっと目を引くその外観もさることながら、岩盤を削って作られたトログロダイト(穴居式)セラーは、長期のワイン熟成に最適な珠玉の環境です。ロワール地方のワインが持つ不思議な力は、地下で生まれるともいえるでしょう。
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Saumurois(ソミュール)及びTouraine(トゥレーヌ)地区の村々の風景を、こんなにも明るく見せているのは何なのでしょう? 今日まで当地の家々の壁面を覆う「テュフォー」と呼ばれる白亜石灰岩が、その柔らかくも鮮明な明るさを醸し出しているのです。それとワインに何の関係が?すぐに分かりますよ...。
グリュイエールのぶどう園!
ロワール地域のワイン生産は、岩盤開発と密接に関連しています。昔、採石用の石切場だった場所は、その後養蚕やキノコ栽培に使用され、ついに多くのワイン生産者が地下数フィートの場所でワインの醸造や熟成をするようになりました。ロワール川岸にある所々の斜面に、トログロダイトセラーの入口が見られます。その他の場所にも隠れたトログロダイトセラーがあり、地下の秘密につながる入り口の向こうには、かなり狭い空間が数百メートルにわたって、時には数キロにも及ぶ驚くべき地下回廊の迷路となって広がっているのです。
地下に保たれる、非常に安定した環境
これらのセラーは時としてアクセスが厳しいのですが、それにも関わらずワイン生産者によって大切に注意深く保存されています。 その理由は、遺産としての価値だけではありません。ワインの保存にとっては温度や湿度の変化が何より大敵ですが、その点「トログロ」セラーはもってこいなのです。外で雪が降っていても太陽が燦々と照っていても、最先端のエアコン並みに自然の力で一定温度(13°C前後)と湿度が保たれます。光を遮る環境下で、ワインを大切に守り穏やかに発酵熟成させるためのすべての条件が満たされます。他の場所で、酒蔵をゼロから建設する必要があるならば、この自然のセラーはワイン生産者やネゴシアンにとって思わぬ授かりものです。
時のとまった空間
「全くすごい遺産です。発酵は遅い場合がありますね。時間にゆだねることを受け入れるのが大事です。この特殊な環境のセラーでは、原材料やできたワインの特性が保たれますし、ワイン液は発酵槽の中でより長く若いままゆっくりと醸造されていくので、ここでのワイン造りは楽しいですよ! 」と 説明するのは、ソミュール地区にあるVarrains(ヴァレン)村のワイン製造元、Antoine Sanzay (アントワンヌ・サンゼイ)さん。Montsoreau(モンソロー)村のDomaine de la Perruche(ドメーヌ・ドゥ・ラ・ペルーシュ)のテクニカルディレクター、David Grellier (デビッド・グレリエ)さんはこう付け加えます。「ここのセラーは時を引き伸ばす力があります。よって、ワインの香りとタンニンは一貫して少しずつ滑らかになっていくんです。この現象は樽ワインだけでなく、ゆっくり醸造が進むボトル入りワインにも当てはまります。白、赤、その他のワインすべて、ここのセラーでの時間を楽しんでいますよ」。特に、シュール ラット(横木)の上で熟成中のSaumur brut(ソミュール・ブリュット)やCrémant de Loire(クレマン・ドゥ・ロワール)など伝統製法またはシャンパーニュ製法で製造されたスパークリングワイン。この地域のワイン生産者と彼らの秘密の地下室が、他の地域の生産者たちの羨望の的であることは不思議ではありません!
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