世界各地の料理の中でも、フランス料理は美食家にとって特別な存在です。 しかし、昔から人気を博しているものの、最近では魅力が薄れ、新たな起爆剤が求められていました。 今回は、活気あふれるビストロやブラッスリーの復活について、知っておくべきことをご紹介します。

目を閉じて、パリ、リヨン、ボルドーで出される料理を想像してみてください。おそらく、馴染みのある料理ばかりでしょう。ブッフブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)や仔牛のブランケットのようにじっくり煮込んだ心温まるシチューからチーズスフレ、ステークフリット、パリッと焼いたローストチキンにクリーミーなポテトピュレ、チョコレートムースまで、ビストロやブラッスリーの定番メニューが思い浮かぶのではないでしょうか。 このようなメニューは何世代にもわたってフレンチの王道でしたが、その料理も提供スタイルも地元の人々からの人気を失いつつありました。
嗜好の変化
伝統的なフランス料理は昔から幅広い層にとって親しみやすく、魅力的なメニューを追求し、ノスタルジックで活気あふれる環境で提供されてきました。しかし、この10年で嗜好やトレンドが変化してグローバルな食のムーブメントが起こり、常に新しいものを求める傾向が強まるにつれ、フランス料理はよりモダンでインターナショナルなスタイルへと移り変わってきました。パリからマルセイユまで、各地の若手シェフたちは世界中の影響を取り入れ、独創的な料理を通して、フランスが世界中の新進グルメ大国に引けを取らないことを証明してきました。
妥協のない品質へのこだわり、高い技術力、そしてフランスが誇る最高級の農産物や食材が手に入る恵まれた環境を武器に、若手シェフたちは「ビストロノミー」と呼ばれる料理革命(カジュアルな美食を手頃な価格で提供する新業態)を生み出しました。アジア風の食堂、ヴィーガン向けの屋台、地中海風カフェ、イタリア料理のトラットリアも増えて、フランス全土の飲食業界は活気にあふれ、競争が激しくなりました。

伝統の復活
今では多様性に富んだ料理が提供されていますが、過去を大切にし、伝統文化を守る名店は常に高く評価されています。長年にわたりモダンな料理が訴求されてきた一方で、地元ではホッとするような馴染み深い料理がもてはやされるようになりました。 アメリカで生まれ、フランスで修業したシェフ、ダニエル・ローズさんはパリ風ビストロをアップデートした店La Bourse et La Vieを2015年にオープンした際、次のように語っています。「世界中でいつもフランス料理について書かれ、語られているとすれば、それには理由があります。美味しいからです!ただし、新風を吹き込む必要がありました」
今でも、ビストロは市場のニーズに応えてシンプルなメニューを提供する気取らないレストランであり、ブラッスリー(もともとはビールを提供する店、英訳すると「ブルワリー」)はボリュームのあるメニュー、ゆとりのあるダイニングルームと広いテラス、通し営業によって再び人気を集めています。
両業態をリフレッシュするため、デザインスキームやレシピに新風を吹き込む取り組みも進められています。ストラスブールの La HacheやパリのBrasserie Bellangerといったレストランでは、カラフルなインテリア、デザイン性の高いメニューやナプキン、独創的なサイネージ、スタイリッシュな大理石のカウンター、モダンな陶磁器の食器を採用しています。他方で、パリのPoule au Potやル・マンのL'Epi-Curieuxのように、古き良き時代をイメージした遊び心あふれる演出を取り入れ、ベルエポック時代の陶製タイルやモザイク張りの床、使い込まれた革張りの長椅子、アンティークの食器といった昔ながらのディテールを守っている店もあります。
料理そのものはどう変化しているのでしょうか?仔牛のブランケットの白米を黒米に変える、定番のスフレに柚子やモレロチェリー、パッションフルーツなどの果物を加えるといった斬新なアレンジを加えたメニューもあれば、忘れ去られた野菜(エルサレムアーティチョーク、サルシフィ、パースニップ、ルタバガ)を使い、東アジアやインドのスパイスをふんだんに取り入れたメニューも見受けられます。さらに、最高の食材を手に入れるという基本的なことを大事にする姿勢が、復活のカギになりました。シェフたちは、料理を格上げしようと真面目に取り組んでいる精肉店、チーズ販売店、ベーカリーに注目するようになったのです。
どのようなスタイルを好む客にとっても、往年のフランス料理の精神は食の世界で揺るぎない地位を築いています。 食べに行く準備はできましたか?
Contributor

Editor