コニャック地方の歴史的なブドウ畑から、フランス・アルプスの山麓まで、フランスの多彩な風景は驚くほど多種多様な蒸留酒を生み出してきました。ストレートでもカクテルでも、伝統的なアペリティフ(食前酒)としても。フランスのスピリッツは、何世紀にもわたり受け継がれてきた匠の技と伝統を味わうことができます。それでは、この素晴らしいスピリッツについて知っておくべきことをご紹介していきます!
アブサン
アブサンは、19世紀末から20世紀初頭のパリで生まれたボヘミアン文化と深く結びついてきたスピリッツで、実に芳香豊かで、強いアニス風味を持っています。ニガヨモギ、アニス、ウイキョウなどのハーブを中性アルコールと共に蒸留して造られます。伝統的には、少量の水で割って飲むお酒ですが、カクテルにも合います。「サゼラック」の材料として、また「フレンチ75」のような定番カクテルに入れてひとひねり加えるなど、さまざまな楽しみ方があります。
アニゼット
アニゼットはアニスの実で造られ、カンゾウの香りが特徴的なフランスの伝統的なリキュールです。甘く芳醇なスピリッツなので、食後酒としてストレートで飲まれたり、「フレンチ・コネクション」のような定番カクテルに混ぜたりして飲まれます。「マリー・ブリザール」は最も有名なアニゼットの一つで、メニューにもよくそのブランド名で記載されています。
アルマニャック
ガスコーニュ地方発祥のアルマニャックは、フランス最古のブランデーで、ドライフルーツ、キャラメル、スパイスの豊かで複雑な風味で知られています。この地域産の特定のブドウ品種からできる白ワインを使って造られます。このワインを伝統的な連続式蒸留器(コラムスチル)で蒸留し、オーク樽で熟成させます。
アルマニャックは食後酒としてストレートで味わうのもよし、ウイスキーの代わりにアルマニャックを使った「アルマニャック・オールド・ファッションド」などのカクテルでも楽しめます。アルマニャックは、テリーヌの材料としても用いられますし、アジャン産プルーンを漬けて干し西洋すももとして食後のデザートやフォアグラの付け合わせにして彩りを添えることもできます。
ベネディクティン
ベネディクティンは、27種類の薬草とスパイスをブレンドして造られるハーブリキュールです。ハチミツ、ハーブ、スパイスの香りが織りなす複雑なアロマが特徴です。ベネディクティンは、食後酒としてストレートで飲むのがオーソドックスですが、「B&B」(ベネディクティン&ブランデー)や、「シンガポールスリング」(ベネディクティン、ジン、チェリーブランデー、ビターズ、パイナップル、ライム)のようなカクテルとしても楽しめます。
ビイル
ビイルは、スペインとの国境に近いルシヨン地方原産で、植物素材とキニーネを漬け込んだ酒精強化ワインベースの食前酒です。ほろ苦い風味が特徴の、フランスの定番食前酒。そのまま冷やしてアペリティフとして、またトニックウォーターで割ったスプリッツにしても爽やかな味わいを楽しめます。
カルヴァドス
カルヴァドスはノルマンディー地方発祥の伝統的なリンゴのブランデーです。芳醇でコクのあるリンゴの風味に、オークとスパイスの香りがほのかに感じられます。フランスでは、食後酒としてストレートで楽しんだり、アーネスト・ヘミングウェイの小説『陽はまた昇る』に登場する「シードル・サングリア」や、「ジャック・ローズ」のようなカクテルにして味わったりします。
シャルトリューズ
シャルトリューズは、18世紀からカルトジオ会の修道士によって受け継がれてきた、130種類のハーブやスパイスをブレンドして造られる独特なハーブリキュールです。ストレートで飲んでその複雑な味わいを楽しんだり、シャルトリューズ・ヴェールをジン、マラスキーノ、フレッシュライムジュースとミックスした、クラシックで爽やかな「ラスト・ワード」や、シャルトリューズ・ジョーヌを使った「イエロー・パロット」など、カクテルに加えて深みを出すためにも使われたりします。
シャンボール
シャンボールはロワール渓谷で生産されるブラックラズベリーのリキュールで、濃厚なフルーティーな風味と深い紫色が特徴です。「フレンチ・マティーニ」や「シャンボール・ロワイヤル」などのカクテルに加えると、エレガントな趣が出ます。
コニャック
コニャックは、コニャック地方(フランス南西部、ボルドーの北)で生産される格調高いブドウのブランデーで、ドライフルーツ、オーク、スパイスの芳醇な風味が特徴です。オーク樽で熟成させることで、複雑なアロマの重なりと、なめらかで余韻の長い味わいが生まれます。ブランデーグラスでストレートで飲んだり、「コニャック・サワー」や「ブールヴァルディエ」のような定番カクテルのベースにしたりするなど、さまざまな楽しみ方があります。
コアントロー
コアントローは、トリプルセックといわれる辛口のオレンジリキュールで、柑橘系の風味が高く評価され、幅広いカクテルで使われています。スイートオレンジとビターオレンジの皮をブレンドして造られ、バランスの取れた濃厚なオレンジの味わいにほのかなスパイスの風味が香ります。「マルガリータ」(テキーラ、ライムジュース)や「コスモポリタン」(ウォッカ、クランベリージュース、ライム)などの定番カクテルに使われます。コアントローは、「スープ・シャンプノワーズ」などのシャンパーニュ・ベースのカクテルにもぴったりで、スパークリングに爽やかなアロマをプラスします。
クレーム・ド・カシス
クレーム・ド・カシスは、クロスグリから造られる甘いリキュールで、芳醇でフルーティーな風味とほのかな酸味が特徴です。「キール」や「キール・ロワイヤル」のような定番フレンチ・カクテルの要となり、鮮やかな色味と強烈な果実味を生み出します。デザートのトッピングにもなるほか、「スプリッツ・ブルギニョン」や意外性が楽しい「シャンパン・ビーツ」など、カクテルに風味を加えるのにも使ってみてください。
デュボネ
デュボネはハーブとスパイスを漬け込んだ酒精強化ワインの一種で、ほろ苦い風味とほのかに香るキニーネとオレンジピールが特徴です。氷を入れて食前酒として楽しんだり、「ブールヴァディエ」のようなカクテルに加えたりしてもいいですね。デュボネは、なんとエリザベス女王のお気に入りのお酒だったのです。女王は昼食前にデュボネとジンのカクテルをたしなむのがお好きだったそうで、時代を超えて食通から愛されるスピリッツとなっています。
オー・ド・ヴィー
オー・ド・ヴィー(フランス語で「生命の水」)は、発酵させた果実を蒸留して造られる無色透明のフルーツブランデーです。さまざまなフレーバーがあり、通常は食後酒としてストレートで楽しみます。
フレンチ・ブランデー
ブドウを蒸留し、オーク樽で熟成させたフレンチ・ブランデーは、ドライフルーツ、キャラメル、スパイスの豊かな風味が特徴です。コニャックは、地理的表示保護を受けたブランデーの一種で、フランスのコニャック地方でしか生産できません。フレンチ・ブランデーはストレートで味わうだけでなく、「ブランデー・オールド・ファッションド」(ビターズ、砂糖、オレンジスライスに好みの割り材を加える)や「ブランデー・アレキサンダー」(クリーム、クレーム・ド・カカオ、ナツメグ)といった定番カクテルに使うことができます。
フレンチ・ウォッカ
フレンチ・ウォッカは高い純度となめらかな口当たりで知られており、フランス産の小麦やブドウを原料として、何度も蒸留して造られます。「グレイグース」や「シロック」など、品質と純化に対するこだわりを体現したブランドがあります。その洗練された味わいは、「フレンチ・マティーニ」や「ブラッシュ・ベリー」などのカクテルにぴったりです。
ジュネピ
ジュネピは、アルプスで自生する「ジェネピ」と呼ばれる薬草から造られるハーブリキュールで、花とハーブの風味が評価されています。フランスのアルプス地方では、昔から食後酒としてストレートで飲まれており、文化的な重要性も高いスピリッツです。
グラン・マルニエ
グラン・マルニエは、コニャック、ビターオレンジの蒸留エキス、砂糖を原料とするオレンジリキュールです。フランスでは通常、食後酒としてストレートで飲まれたり、カクテルに加えて風味を引き立たせたりするのに使われます。また、クレープ・シュゼットのようなフランベ料理を作る際にも使われます。
ギニョレ
ギニョレは、サクランボをブランデーまたはオー・ド・ヴィーに浸漬して造られる伝統的なチェリーリキュールです。濃厚でフルーティーな風味が特徴です。通常、食前酒や食後酒としてストレートで飲まれます。
キルシュ
キルシュはサクランボを蒸留した無色透明のフルーツブランデーで、力強くてフルーティーな風味と、ほのかなアーモンドの香りが特徴です。一般的には食後酒としてストレートで飲まれますが、カクテルに加えて深みを出すために使うこともできます。キルシュはまた、伝統的なサヴォワ風チーズ・フォンデュの決め手となる材料でもあります。フランスのショコラティエがチョコレートのフィリング(詰め物)に使うこともあります。
リレ
リレはフランス産ワインをベースにした食前酒で、ボルドーワインに柑橘類を浸漬したリキュールをブレンドして造られます。洗練された芳香豊かな風味が特徴です。リレには、リレ・ルージュ(芳醇な果実味)、リレ・ブラン(爽やかな柑橘系の香り)、リレ・ロゼ(繊細なフローラル風味)の3種類があります。冷やしたリレにオレンジスライスやレモンピールを添えてそのまま楽しんだり、「ドーチェスター」、や有名な「ヴェスパー・マティーニ」(リレ・ブラン、ジン、ウォッカ)のような定番カクテルにも使われたりします。「ヴェスパー」は、イアン・フレミング作の『カジノ・ロワイヤル』の中でジェームズ・ボンド(007)が思いつき、二重スパイのヴェスパー・リンドにちなんで名付けられたカクテルです。
ミラベル・ブランデー
ミラベル・ブランデー(別名オー・ド・ヴィー・ド・ミラベル)は、ロレーヌ地方でミラベルプラムから造られる伝統的なフルーツブランデーです。デリケートな風味とフローラルな香りが特徴です。フランスでは、伝統的に、食後酒としてストレートで楽しまれます。
ノイリー・プラット
ノイリー・プラットは、南フランスで造られる高級フレンチ・ベルモットです。ハーブ、スパイス、柑橘類の香りが織りなす複雑なアロマが特徴です。ドライなハーブ風味は、「マティーニ」や「マンハッタン」などの定番カクテルを引き立てるのにぴったりです。
パスティス
パスティスは、プロヴァンス地方発祥の伝統的なアニス風味の蒸留酒です。アニスの種子やカンゾウなど、さまざまな薬草を中性アルコールに浸漬し、水で希釈して造られます。カンゾウとハーブの、爽やかでかぐわしい風味が特徴です。「リカール」と「ペルノー」はパスティスの2大ブランドです。
パスティスはマルセイユ発祥ですが、現在ではフランス全土で大きな人気を博しています。伝統的には、食前酒として水割りにしますが、夏はグレナデン、アーモンド風味のオルジェシロップ、ミントシロップでアレンジすることもあります。最近では、編集部イチオシのサマードリンク「フランス産パスティスとイチゴのカクテル」のように、カクテル用としても人気が出ています。
ピノー・デ・シャラント
ピノー・デ・シャラントは、マスト(新鮮なブドウを破砕した搾り汁)にコニャックをブレンドし、ワインオーク樽で12~18カ月熟成させた酒精強化ワインです。甘くフルーティーな風味で、オークとスパイスがほのかに香ります。言い伝えによると、ピノー・デ・シャラントは16世紀、あるワイン生産者が誤ってブドウ果汁とブランデーを混ぜてしまったことから生まれたそうです。男は落胆し、その樽を取りのけてしまいましたが、数年後、それが思いがけず美味しいお酒になっていることに気づきました。
ピノー・デ・シャラントには、赤、白、ロゼがあります。伝統的には食前酒として冷やして飲みますが、アペロールの代わりにピノー・デ・シャラントを使って、「ピノー・スプリッツ」のようなカクテルを作ることもできます。
ピコン
ピコンは、ビターオレンジと薬草を浸漬・蒸留して造られる、ほろ苦いオレンジ風味のリキュールです。フランス版アマーロともいえますが、通常はストレートで飲むことはありません。柑橘類とハーブの独特の香りが特徴のピコンは、ビールに加えて、フランスで人気の食前酒「ピコン・ビエール」を作るために使われることが圧倒的に多いです。また、「トロカデロ」などのカクテルに加えると、深みが出ます。
ポモー
ポモーは、リンゴ果汁にカルヴァドス産リンゴブランデーをブレンドし、12カ月以上熟成させたフランスの伝統的な食前酒です。甘くフルーティーな風味で、キャラメルとスパイスがほのかに香ります。上質で果実味豊かなスピリッツを好む方にぴったりな、伝統的なお酒です。冷やしてストレートで楽しんだり、カクテルに加えて深みを出したりすることもできます。カマンベールやポン・レヴェックなどのノルマンディー地方のチーズとの相性が最高です。
マルティニーク産ラム
独特で複雑な風味を持つマルティニーク産アグリコール・ラム(またはマルティニーク産ラム)は、カリブ海のフランス領マルティニーク島でサトウキビの搾り汁や糖蜜を蒸留して造られます。この製法により、独特の草や土の香りが生まれます。ストレートやロックでもよし、定番カクテルの「ティー・パンチ」(ラム、ライム、サトウキビシロップをステア)、「モヒート」や「ロンポポポン」に加えると深みが出ます。
サンジェルマン
サンジェルマンは、新鮮なエルダーフラワーの花を中性スピリッツに浸漬した、フローラルで香り高いエルダーフラワーのリキュールです。ミクソロジストやカクテル愛好家の間で人気が高く、カクテルに繊細な甘みと深みを加えることができます。「エルダーフラワー・マティーニ」や「サンジェルマン・スプリッツ」のような定番カクテルに加えると、さらに風味が引き立ちます。
スーズ
スーズは、ゲンチアナの根から造られる伝統的なフランスの食前酒で、苦味とハーブの風味が特徴です。鮮やかな黄色の色合いと独特の味わいを持ち、ストレートで楽しむだけでなく、氷を入れたグラスで水割りにしたり、トニックウォーターで割って爽やかな「スーズ・トニック」として飲まれたりすることが多いリキュールです。独特の苦味があるため、「スーズ・スプリッツ」や「ホワイト・ネグローニ」のようなカクテルに加えると、深みが出ます。
ブルターニュ・ウイスキー
フランスで高品質ウイスキーが生産されていることを知っている人はあまりいないでしょう。ブルターニュ・ウイスキーは、ブルターニュ地方で生産されるフレンチ・ウイスキーで、海洋の影響と大胆な風味が特徴です。地元産の大麦を原料とし、オーク樽で熟成させたこのウイスキーは、荒々しい海岸の風景を思い出させるような、海塩、ピートスモーク、塩水の香りを持っています。
フランスのスピリッツは料理の味も引き立ててくれることをご存じでしたか?ソースに深みを加えたり、デザートをよりいっそう美味しくしたり、さまざまな形であなたの作る料理を格上げしてくれます。料理にどのようにスピリッツを取り入れるかについて、ご紹介します。フランス産スピリッツの魅力をキッチンで全開させましょう!