2023年12月に公開されたジュリエット・ビノシュ主演の映画『ポトフ 美食家と料理人(原題:La passion de Dodin Bouffant、英題:The Taste of Things)』を携えて、美食の旅に出掛けましょう。フランスで制作されたこの映画は、ストーリーが魅力的なのはもちろんですが、「ポトフ」にスポットライトを当てることでフランス料理へのオマージュを表現しています。この作品から得たインスピレーションをもとに、『レミーのおいしいレストラン』や『ジュリー&ジュリア』など、食べ物をテーマにした映画を振り返ります。
『ポトフ 美食家と料理人』の特筆すべき点は、ガストロノミー(美食)を単なる背景ではなく、物語の中心に据えているところです。この映画の主人公は、著名な美食家ドダン(ブノワ・マジメル)に20年間仕えている腕利きの料理人、ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)です。
1885年頃のフランスを舞台に料理でつながった2人の関係は、お互いの美食に対する情熱と敬意を糧にしながら、職業上の関係から恋愛関係へと発展していきます。愛情の深まりとともに2人が作り上げる優美で繊細な料理の中には、フランス料理の豊かな味わいを象徴するシンボル的料理「ブッフ・ブルギニョン」も出てきます。料理の映像を通して、2人の情熱を表現するだけでなく、世界中の美食家たちに驚きをもたらしながら、2人の関係性が変化していく様子や優れた料理の才能をも描写しています。
美食がテーマの名画『レミーのおいしいレストラン』『ショコラ』
美食をテーマにした映画の中には、フランス料理の魅力と感動的なストーリー展開を結びつけて、エンドロールが終了した後もさまざまな味や感情が続いていく作品もあります。『ショコラ(原題:Le Chocolat)』や『レミーのおいしいレストラン(原題:Ratatouille)』などがまさにそれです。フランスのチョコレート作りを魅力的に描いた『ショコラ』は、単なる甘い物好きの話ではありません。誘惑や変化、コミュニティを結びつける絆を象徴するシンボルとしてチョコレートを取り入れ、食べ物がもつ“変化をもたらす力”を深く掘り下げています。
一方、『レミーのおいしいレストラン』では、アニメーションを用いて、フランス料理の洗練された魅力を前面に押し出しています。並外れた料理の才能をもったネズミのレミーが繰り広げる心温まる物語を通して、昔ながらのフランス料理に風変わりなひねりを加えて紹介するとともに、パリの代名詞である美食のすばらしさを称賛しています。
ハリウッドスターが登場する美食映画
2007年に公開された『幸せのレシピ(原題:No Reservations、仏題:Le Goût de la Vie)』と『ジュリー&ジュリア(原題:Julie and Julia)』はどちらも、映画の中で語られるフランス料理にユニークな趣を与えています。キャサリン・ゼタ=ジョーンズ主演の『幸せのレシピ』では、観る者をストレス過多なプロの料理人の世界へと引き込みながら、フランス美食界が求める“卓越性の飽くなき追求”や“精緻な技術”を紹介しています。
一方、『ジュリー&ジュリア』では、伝記とフィクションを見事に融合させています。2つの実話に想を得て誕生したこの映画は、エイミー・アダムスの演じるジュリー・パウエルがジュリア・チャイルドのレシピ本『Mastering the Art of French Cooking(フランス料理という芸術の習得)』に載っているすべてのレシピを1年かけて作るという2000年代初頭にあった実話を再現しています。ジュリア・チャイルドを演じるメリル・ストリープは、フランス料理界におけるジュリア・チャイルドの象徴的地位をしっかりと捉えて演じています。どちらの作品も、物語性、個人の成長、文化的表現を媒体するものとして食の力を表現するとともに、レンズを通してフランス料理の豊かな伝統を称賛しています。
社会現象を引き起こしたドラマ『エミリー、パリへ行く』
フランス料理の描写を数多く取り入れたドラマ『エミリー、パリへ行く(原題:Emily in Paris)』は、ロマンチックな外出と料理の冒険を融合させながら、現代のパリの生活を生き生きと描いています。ドラマの中に登場する赤い正面のレストランは、実際にパリ5区にあるリストランテ「テラ・ナラ(Terra Nera)」で、ドラマの中では「ドゥ・コンペール(Deux Compères)」と呼ばれています。ヨハン・バラネス(Johann Baranes)とヴァレリオ・アバーテ(Valerio Abate)が所有するこのテラ・ナラは、ドラマに登場して以来、観光客が訪れる人気スポットとなっており、ドラマにインスピレーションを得たメニューも提供されています。ドラマでは、パン・オ・ショコラを注文するときの興奮から、最初は懐疑的だった「ブルー(生に近い超レア)」や「セニャン(レア)」のステーキを最終的には高く評価するようになる様子まで、パリの文化を受け入れようと努力するエミリーの姿と料理の描写を絶妙に織り交ぜています。
食べ物は栄養を補給するためだけのものにあらず
『ポトフ 美食家と料理人』のような美食をテーマにした映画では、単に映画の構成要素として料理を取り入れるのではなく、料理芸術に対するオマージュが表現されています。これらの作品は、食べ物が単に栄養を補給するためだけのものではなく、文化や愛、人生そのものを表現するものであることを思い出させてくれます。このように美食をテーマにした映画作品が世界中の観客を魅了し続ける以上、スクリーン上の食べ物と豊かな物語の両方を私たちが渇望していることは間違いありません。