フランス語の「食」にまつわるボキャブラリー
他のあらゆる分野と同様、料理にも独自の「ボキャブラリー/ことば」があります。フランス料理の世界でも、国語の豊かさや高い知名度を誇る美食へのこだわりを反映して、今では世界中ありとあらゆる場所で料理に関するフランス語を耳にするようになりました。
すべての動作に名前がある――それが料理です。薄切りにした材料を波打つように盛り付ける「chiffonnade(シフォナード)」。厚さ約2 mmの千切りは「julienne(ジュリエンヌ)」。カットした肉や魚、野菜を強火にかけたフライパンで「sauter(いためる)」調理法は「「 sauté(ソテー)」……聞いたことがあるって?それもそのはず、料理が世界各地に広まれば言葉もそれについてまわります。シャンティイ、カナッペ、オードブル、ブーケガルニなど、世界中で認められた多くの食材やレシピがそうであるように……居ながらにしてフランス旅行気分が味わえそう!
諸国漫遊
フランス国内に目を向けると、ここでも地域色豊かな料理用語がその土地への旅情を掻き立てます。南西部で「chocolatine(ショコラティーヌ)」と言えば、パンオショコラのこと。プロヴァンス地方の「loup(ルー)」は魚のスズキ。「oreillettes(オレイエット)」は砂糖をまぶした揚げ菓子ですが、コルシカ島では「frappes(フラップ)」、リヨン地方では「bugnes(ビューニュ)」と名前を変えます。さらに「carpaccio(カルパッチョ)」や「crudo(クルード)」、「hot dog(ホットドッグ)」に「paëlla(パエリア)」、「mochi(餅)」、「sundae(サンデー)」など、その他お馴染みの外国料理も長い年月をかけてフランス人の食生活に浸透し、辞書にも取り上げられるようになりました。ところで同じような流れの中で注目されるのは、料理の世界にも次第に英語化の波が押し寄せていること。Slicer(スライスする)にsnacker(強火でさっと焼く)、さらにはtwister(アレンジする)、toppings(トッピング)、pimper(彩を添える)、bruncher(ブランチする)、batch-cooking(作り置き)などなど。既にfooder(料理好き)や甘党の人たちがこうした言葉を「多用する(utiliser « à toutes les sauces »[=あらゆるソースに入れる])」ようになっています。
ユーモア
慣用句が出てきたところで、料理に関するフランス語の多様な慣用表現をご紹介しましょう。「Un coq en pâte(生地に包まれた鶏)」とはぬくぬくと暮らしている人のこと。「mettre du beurre dans les épinards(ホウレンソウの中にバターを入れる)」には家計の足しにするという意味も。「être copains comme cochons(豚のような友人関係)」は切っても切れない仲、「la fin des haricots(インゲン豆の最後)」は万事休す、「tomber sur un os(骨の上に転ぶ)」とは困難や問題に遭遇することを意味します。ではここで問題をひとつ。次の文章の意味は?「豚のような友人同士のこの2人は生地に包まれた鶏だ。でも気をつけて、ホウレンソウの中にバターを入れることを望み過ぎると、骨の上に転んでしまうかも。そうなればインゲン豆の最後だ……」。
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エディター