日本のフルーツは、見栄えがよく、ジューシーでそのまま食べたほうが美味しいですが、フランスのものは、加工用に適しており、焼いても汁がほとんど出ないので、お菓子に使用しても美味しくできます。昔からフランスでは、大量に採れた果物を、コンポートやジャムにして保存する伝統がありますね。日本のりんごでタルト・タタンを作ると汁が沢山出て大変。しかし、パティシエさんたちの努力により、今では本場にひけをとらない美味しいタルト・タタンが作られています。
タルト・タタンは、サントル=ヴァル・ド・ロワール地方の小さな町、ラモット・ブーヴロンの駅前ホテル、「ホテル・タタ」ンの厨房で、19世紀に、あるハプニングが元で作られました。当時、このホテルは流行りに流行っていました。毎日押し寄せてくる客を相手に美味しい料理と笑顔で迎えていたのは、ステファニー・マリーとジュヌヴィエーヌ・カロリーヌという姉妹でした。ある日のこと、二人は、あまりの忙しさにデザートを準備することを忘れていました。これに気が付いた姉妹の一人が、パニック状態のままタルト型にりんごをいきなり詰めて焼いてしまい、そこにやってきたもう一人の姉妹が、オーブンをあけてびっくり。生地がない!すぐに機転をきかせ、あわて生地をかぶせ、焼きあがったタルトをひっくり返してみたら、どうでしょう、りんごはあめ色に輝き、とろけるような食感となっているではないですか!その後、このお菓子の評判は町に広まり、ホテルの看板菓子となっていったのです。
そして、ある日、たまたまそこを訪れていた食通ジャーナリスト、キュルノンスキーの口に入り、記事となってパリでも知られるようになったのです。キュルノンスキーは、フランス料理は、郷土料理の豊かさにあると提唱し、各地の美味をガイドブックなどで紹介していたのです。
ロワール地方でマルシェを訪れた際、しわしわのリンゴをあえて売っていたのには驚きました。聞くと、タルト・タタン用だというのです。フランスの家庭では、よくキッチンにパニエにフルーツを入れたままにしていますが、そんな風にして水分が少し抜けたフルーツをタルト作りなどに使用しているようです。