こんにちは、パリでソムリエールをしている細川聖香です。2019年から、エッフェル塔のなかにありますフレンチレストラン「ル・ジュール・ヴェルヌ」が私の仕事場です。世界各国から観光客が集まりやすい立地ながら、コロナ禍のなかではフランス人客で満席に。最近ようやく、ヨーロッパ各国やアメリカからのお客様が戻り始めてきたところです。
和食店ではシャンパーニュやブルゴーニュワインが定番
パリに住み、フレンチレストランに勤務している私ですが、普段は和食も食べています。フランス人は日本食が大好き。2010年にフランス料理がユネスコの無形文化遺産となり、2013年には日本食も続きました。そこから日本食に親近感が沸いて以来、日本食がブームに。おかげで、パリには和食店がたくさんあります。とくに今流行っているのは、焼鳥や唐揚。ちらし丼、かつ丼といった丼ものや蕎麦も揃っていますよ。
もちろん、胡麻豆腐などの先付、コンソメだし汁を張ってキャビアをあしらった和牛の椀ものなど、きちんとした流れで料理を出す割烹もあります。お店で皆さんの動きを見ていますと、フランス人は日本酒のほかシャンパーニュやブルゴーニュのワインを合わせていることが多いですね。和食には濃厚なソースの要素がないので、軽めで繊細なワインがよく合うんです。たとえば胡麻豆腐には、マロラクティック発酵(乳酸発酵)をさせてふくよかになった白ワインがピッタリ。また、ちょっと醤油を効かせた料理には、醤油の香ばしさに合わせてブルゴーニュのピノ・ノワールもすごく合わせやすいです。
一流シェフとのコラボ寿司などテイクアウトも充実
コロナ禍のロックダウン期間中に、テイクアウトできる飲食店はとても増えました。とはいえ、もともと寿司のテイクアウトは人気でして、パリには「スシ・ショップ」をはじめテイクアウト専門のチェーン店も展開されているほど。寿司の内容は、ちょっとモードな感じです。ミシュラン三ツ星シェフの故ジョエル・ロビュションさんやアンヌ・ソフィー・ピックさんとコラボした寿司を出したり、野菜だけを使ったベジタリアン寿司を用意したり。「アスパラやアボカドが巻いてある味噌味のカリフォルニアロール」なんて日本人の発想にはないスタイルと出会うとビックリしますが、すごく楽しいですよ。
一方、日本式のお弁当もパリでよく知られるようになりました。鶏の照り焼き弁当や、炭火焼の店が提供するうなぎ弁当など、私もパリで買って食べたことがあります。ただ、多くの店のお弁当はもっと豪華なものが主流。コース料理をテイクアウトする感覚なので、おせちを思わせるお弁当が6,000~7,000円程度の価格で提供されています。
お米の入っている弁当なら、お米のまろやかさに合わせ、樽発酵させたブルゴーニュのシャルドネ、シャンパーニュでも何年か寝かせて味わいの柔らかくなったヴィンテージ・シャンパーニュが好まれますね。
家庭料理にはロワールやアルザスのお手頃ワインを
フランスに来てから和食がより恋しくなりまして、我が家での食事は、日本にいるときと同じような家庭料理。でも、合わせるのは当然フランスワインです。
ある日はカレーライスに南仏ルーションの赤ワインを合わせ、別の日は鯖の味噌煮とブルゴーニュのジュブレ・シャンベルタンを合わせました。やはり、基本的にはちょっと淡く軽めなタイプ、1500円程度で入手できるカジュアルワインがよく登場します。個人的に大好きなのは、ロワールのシュナン・ブランを使った白ワイン。酸が高めなところが、お酢の効いた料理とすごく調和するんです。あとは、アルザスのリースリング。とろりとしたワインの甘味が、シンプルな焼き魚などと合わせやすいんですよ。
私の職業を知っている和食店の人からは、しばしば「どんなワインと和食を合わせたらいいの?」と聞かれますので、このあたりのワインをいつもオススメしています。逆に、私が勤務する店で提供しているアミューズ「ラングスティーヌのラビオリ仕立て」には、日本酒が合うと思っているんです(笑)。エビの甘さが、日本酒の甘さにピッタリ。魚特有の香りもきちんと抑えてくれる日本酒が、エッフェル塔内の正統派フレンチで登場したら面白いかも……と今はひそかに交渉中です。
●細川聖香 名古屋マリオットアソシエホテルに勤務後、一念発起をしてフランスへ。パリでソムリエとして働くためのディプロムを取得し、数軒のレストランで経験を積む。2019年、エッフェル塔2Fミシュラン星付きレストラン「ル・ジュール・ヴェルヌ」リニューアル・オープンのタイミングで入社。ワインの知識とテイスティング能力を競う「ルイナール・ソムリエ・チャレンジ2021」フランス大会で優勝。
聞き手:山本真紀