カクテルという枠のなかで、より素材感が強く、より自由に創作できるのがミクソロジー。日本を代表するミクソロジストである南雲 主于三(なぐも しゅうぞう)さんに、とっておきのレシピを教えてもらいました。
感性豊かなフランス人の言い回しが印象的
南雲 主于三(なぐも しゅうぞう)さんは、仕事でフランスへ頻繁に足を運んでいるそう。「日本茶を使ったカクテルを披露したり、レストランのシェフとイベントをしたり、さらには蒸留所の人たちと一緒に新商品開発をしたりしてきました。
「フランス人はリアクションが大きくて表現が豊かだから、話をしていてとても面白いです。ある日、抹茶やパッションフルーツ、ココナッツウォーターを使ったカクテルを作ったのですが、それを口にしたシェフが『5月の草原に咲いている百合の香りがする』と表現し、周りの人も『そうそう』と納得していました。風味を風景や情景に例えてみせるのって、フランスっぽいですよね。」
そんなフランスでの思い出を語りながら、南雲さんが披露してくれたのはフランス産ジンをベースとしたレシピ。
ジンは、もともと様々な薬草などを漬け込んでいる酒ですが、南雲さんはそこへさらに山椒の実を漬けこんでみせました。
「山椒の青い実は、シーズンのときはフレッシュなものを入手しています。ジンに山椒を適量入れて、常温なら4~5日保存。山椒の香りが移ったジンをカクテルに使っています」(南雲さん)
●フレンチ・ジン × 山椒<トルービヨン>
<材料>
山椒を漬けたフレンチ・ジン 20ml
ビターリキュール(スーズなど)20ml
フレンチドライベルモット(リレブランなど)20ml
<レシピ>
1 あらかじめ空のグラスに氷以外の材料を注ぎ、混ぜておく。
2 ミキシング用グラス(大きめのグラス)に氷を入れ、1を注いでステア(ロングスプーンで混ぜる)。
3 大きな氷を入れたロックグラスに2を注ぎ、ジンに漬け込んだ山椒を氷の上に載せる。
「フランスのジンはメーカーによって個性が異なります。ジュニパーベリーの香りがガツンとくるタイプや、香水のようにパワフルな香りを持つタイプもありますが、私が使っているのは華やかな香りがふわっときれいに広がるタイプ。そのほうが、ほかの素材と合わせたときに相性がいいんです」(南雲さん)
そんな使い勝手のいいジンに山椒を漬けこむことで、ジンの持っていなかった新しい個性を添えてあげるのが南雲さん流。さらに青い香りが刺激的な山椒とよく馴染むハーブ・リキュールや、アペリティフにもピッタリなアロマタイズド・ワインの風味が重なり、奥行きと存在感をぐんと増した1杯が完成しました。
我が家でもミクソロジー事始め?
カクテルを作る前に氷を少量のアルコールで洗っておいたり、なめらかにステア(スプーンで混ぜる)してみせたり、と南雲さんの所作はとても繊細。
ステアする時間も、使う材料によって異なるのだそうです。
南雲さん曰く、「醸造酒は氷が溶けにくいので、長くステアします。アルコール度数の高い蒸留酒のほうが、氷は溶けやすいものです。」
頃合いを見計らってステアを終えたら、素早くロックグラスへ。きっちり冷えつつもアルコール特有のとろみはまだ残されている絶妙な状態のカクテルなのはさすが、です。
南雲さんほどの神技は家で再現できないけれど、フランスと日本の酒にフレッシュな食材を用意し、家でもミクソロジーを楽しんでみましょうか。
そのうち、お気に入りの蒸留酒に好みのハーブやスパイスを漬け込み、カクテル・ベースまで自作できちゃうかもしれませんよ!
プロフィール
南雲主于三(なぐも しゅうぞう)
バーテンダーとして活躍しつつ独自にミクソロジーを追求。日本の焼酎や海外のスピリッツ・メーカーによる商品開発にも参画。
日本の酒に注力したバー「FOLKLORE」、カカオをテーマとしたバー「mement mori」など、ユニークな店舗を次々と手掛けている。
Contributor
ミクソロジスト