「格付けチェック」!?

By 安田 まり

お正月といえば、元旦の「芸能人格付けチェック」。GACKTにかわりYOSHIKIが、そしてビッグボス新庄など、話題満載で楽しみですね。さて、ワインの世界で「格付け」といえば、1855年に制定されたボルドーのものを思い浮かべる方が多いと思います。実は、同じ年、ブルゴーニュでも、後の畑の格付けの礎となる分類が発表されていました。

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ボルドーはワインを格付け

1855年に制定されたメドック地区とソーテルヌ地区の格付けは、ワインの銘柄(この場合は、銘柄すなわち生産者)を格付けするもので、第一級から第五級まで、最終的に61の銘柄が選ばれました。ところで、この格付けが発表された当初、「シャトー」と付いていたのは、「ラフィット」「マルゴー」「ラトゥール」「ディッサン」の4銘柄だけでした。ボルドーはちょうど、未曾有の繁栄を享受している時期で、メドックでは財政的な余裕から、文字通り城や大きな建物を意味する「シャトー」の建設ラッシュが始まり、このころから「シャトー・〇〇」が増えていったのです。

格付け制定のきっかけは、この年、産業革命を推進するナポレオン3世のもと、パリで開催された万国博覧会です。フランスの代表的な産物の一つとしてボルドーワインも展示されることとなったのですが、この機会に、来場者にわかりやすいようにと、ナポレオン3世の命令でワインの格付けが行われました。ボルドー商工会議所が中心となって、それまでの取引価格と評判をもとに、メドック地区の赤ワインの中で特にすぐれた銘柄を選び出し、これを第一級から第五級までに分類をして発表したのです。あわせてやはり名声のあったソーテルヌ地区の甘口の白ワインについても同様に27銘柄が選ばれ、特別第一級、第一級、第ニ級に分類されました。ワインの美味しさ、品質の良し悪しは、15世紀には価格の違いに反映されていたといわれており、18世紀にはすでに銘柄のヒエラルキーが明確になっていたので、1855年の格付けでは、それまでの取引で事実上認められていたヒエラルキーが公認されたに過ぎないと考えられています。

ブルゴーニュはテロワールを分類

1855年、ブルゴーニュのコート・ドール地区でも、後の畑の格付けの礎となる分類が発表されました。ボルドーとの大きな違いは、ボルドーでは生産者を対象としているのに対し、ブルゴーニュは、クリマ(区画)を対象としています。また、ボルドーの1855年の格付けは、公的に認められたものですが、ブルゴーニュは、この時点では公的な裏付けはありませんでした。この年、ディジョン生まれで、医者で植物学者でもあったジュール・ラヴァル(Jules Lavalle)博士が、大著「コート・ドールのぶどう畑とグラン・ヴァンの歴史と統計」を発表しました。当時、ブルゴーニュでは、大量生産型のワイン造りが増えていて、本来の銘醸地としての名声を守りたいというプレミアムワインの生産者の意向を受けてのことでした。

この中で博士は、コート・ドールの29の村それぞれについて、そのコミューン(村)のクリマを、「テート・ド・キュヴェまたはオール・リーニュ(別格)」、「第一級」、「第二 級」、「第三級」の4つのグループにわけて発表しました。それぞれのクリマについて、面積と所有者の名前も記され、場所によっては説明も記載されている、詳細なものです。例えば、ヴォーヌ・ロマネのコミューンでは、「テート・ド・キュヴェ」は、「ロマネ・コンティ」、「レ・リシュブール」、「ラ・ターシュ」、「ラ・ロマネ」の4つです。「第一級」には、「ロマネ・サン・ヴィヴァン」、「レ・マルコンソール」、「ラ・グランド・リュ」など、9つのクリマが並びます。

コート・ドールの畑の分類の試みは、ジュール博士の前にも行われていました。ジュール博士は、コート・ドールの農業委員会の要望を受け、先達の著書や18世紀、19世紀の取引価格も参考にしながらまとめたのです。ブルゴーニュの畑の分類は後に、AOCのグラン・クリュやプルミエ・クリュとして公的に認められ、このジュール博士の著書がその策定に大きく影響を与えました。例えば、前述のヴォーヌ・ロマネのコミューンでいえば、「テート・ド・キュヴェ」とされた「ロマネ・コンティ」、「レ・リシュブール」、「ラ・ターシュ」、「ラ・ロマネ」はすべて、現在のグラン・クリュです。「第一級」とされた「ロマネ・サン・ヴィヴァン」や「ラ・グランド・リュ」は現在、グラン・クリュ、「レ・マルコンソール」は現在、プルミエ・クリュです。ブルゴーニュのコート・ドールのクリマは2015年にユネスコの世界遺産に登録されましたが、このような歴史的な積み重ねがあったのです。

広がる格付け

ボルドーでは、メドック地区の格付けからほぼ100年後の1953年、グラーヴ地区のワインの格付けが、1954年には、右岸のサン・テミリオン地区でもワインの格付けが制定されました。

そして、このような生産者の格付けを行ったのはボルドーだけではありません。南仏のコート・ド・プロヴァンスでは、1955年に、23の生産者が、農業省の省令(アレテ)により、「クリュ・クラッセ」として格付けされました。当時、コート・ド・プロヴァンスはAOCではありませんでしたが、格付けされた生産者を中心として高品質を追求し、価値を高めようとした動きが、1977年のコート・ド・プロヴァンスのAOCの獲得へとつながっていったのです。

格付けのワインは数が限られていて、もちろん、相応の魅力があります。一方で、格付けではないワインには、飲みやすさや、毎日飲めるなどの楽しみがあります。そのような懐の広さがワインの魅力といえるでしょう。新しい年を寿ぎながら、いろいろなワインをお楽しみください。

Contributor

MariYasuda
安田 まり

ワインジャーナリスト

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