今回は、数々の名城が存在していることから「フランスの庭園」の異名を持つ、ロワール地方にフォーカスいたします。フランスには偉大な産地が多数ありますが、その中でもロワール地方のダイバーシティの奥深さは底知れません。
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クレマン・ド・ロワールに代表される気品溢れるフレッシュなスパークリングワインに始まり、魚介類との相性で秀逸なグロ・プラン・デュ・ペイナンテ、高貴なシュナン・ブランで造られ軽やかで伸びやかな酸味を持ち合わせるヴーヴレイから、今や世界中でブームにもなっている「COOL」な品種の1つであるカベルネ・フランで造られるトゥーレーヌ赤やブルグイユ、そしてデザートと楽しむ甘口ワインのコトー・デユ・レイヨン。
フランス最大の大河であるロワール川やその周りを流れる沢山の支流、そして中央高地の麓から大西洋岸までロワール渓谷は幅広く分布しているため、その多様な土壌構成や気候によってロワール地方のワインだけで、十分にコース料理を堪能できるほど、唯一無二のワインが生まれるのです。
今回はこの中でも、近年注目を集めている「ミュスカデ」そしてロワール地方の「カベルネ・フラン」から造られるワインにフォーカスし紹介させていただきます。
ミュスカデというワインは良い意味で名の知れたワインで、フランス国内のビストロやシーフードレストランでよく使われているからこそ月並みなワインとして見られてしまいがちです。フレッシュなオイスターにはミュスカデ、どうしてもこの範疇の中で収まってしまっているのが否めません。
ミュスカデでは瓶内で澱とともに熟成される「シュール・リー」と呼ばれる製法がよく用いられます。この製法によって単純にトーストやイースト的な香りが加わり、より厚みのあるテクスチャーが生まれ、想像以上に長い熟成能力も同時に得られることができます。熟成したミュスカデは若い時と同じようなフレッシュさを持ち合わせるだけでなく、ローストしたナッツや砕いた貝殻や潮風のようなヨードの香り、そしてホワイトマッシュルームや白カビチーズなどまさに高貴な白ワインが持ち合わせるキャラクターが現れます。
ミュスカデの中でも特に一級品のワインが生産されるデノミナシオン(Dénomination Géographique Complémentaire)という指定された地理的表示をもつA.O.C.ミュスカデ・セーブル・エ・メーヌがあります。デノミナシオンは2011年「クリソン」「ゴルジュ」「ル・パレ」、2019年にはさらに4つが新たに認められました。このように産地の細分化、テロワールへの理解が進んでいるだけでなく、収量や樹齢などのより厳しい統制も敷かれ、より厚みのある複雑性に富むワインが生まれております。また生産者によっては、スキンコンタクトを選択したり、樽での熟成を促したりとミュスカデ特有の溌剌とするような生き生きとした酸と塩味を生かしながら、よりダイバーシティ溢れるワインを楽しむことができます。単純にミュスカデには牡蠣!というだけでなく、それらのスタイルに合わせて、同じ牡蠣であっても、リッチなタイプには牡蠣フライ、熟成したものには牡蠣グラタン、または塩っぽいミネラル感が強いものには、牡蠣の昆布締めなど、同じ牡蠣という食材であっても数々のペアリングと楽しむことができるのです。
そして私も個人的に大好きな品種の1つがこの地で固有の「カベルネ・フラン」です。ロワール地方でカベルネ・フランから造られるワインは「チャーミング」「洗練されている」「フローラル」という言葉がぴったりなほど、そのエレガンスに魅了されている消費者の方も増えているのではないでしょうか。近年はブドウ本来のピュアな味わいが全面的に出ている軽やかなスタイルのワインが多くのファインダイニングのレストランなどで人気があるように、まさにロワール地方のカベルネ・フランの時代が来たと言っても過言でありません。
みなさんのなかには、カベルネ・フランが「青臭いピーマンの香り」と杓子定規に教わっている方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方にこそ試していただきたいのが、近年のロワール地方で造られる優美で繊細な味わいのソーミュールやソーミュール・シャンピニイ、アンジューやアンジュー・ヴィラージュ、シノンやサン・ニコラ・ド・ブルグイユです。ブドウ自体が未熟であったり、確かに涼しい年のワインなど、そのキャラクターが前面に出ているものもありますが、最近はそうしたものに出会うのはどちらかというと稀と思います。間違いなく、「地球温暖化」の影響によりブドウがよく熟すようになったこともありますが、ブドウの栽培、そしてワインメイキングの技術発展が品質向上に大きな役割を担っています。カベルネ・フランの生育期間にはグリーンハーベスト(Vendange en Vert)を行ったり、秋雨の影響があるにも関わらず、ブドウがしっかりと熟すまで収穫を遅らせたりする努力を生産者が行うだけでなく、醸造に関しても天然酵母(Levures Indigènes)を使用したりより良い樽での熟成を心がけるなど、カベルネ・フランのエレガンスが詰まったワインが近年より多く生み出されています。一部のカルト的な人気を誇る生産者のワインを除けば、その価格帯も非常に魅力的なものが多いのも嬉しいですよね。
ジューシーできめ細やかな酸味と滑らかなタンニンが織りなすテクスチャーは食事との汎用性もグッと高めてくれます。和食なら京都の伝統的な料理であるハモの棒寿司などに合わせてもらうと、ハモの繊細な食感、そして甘い醤油ベースのタレと上に添えられている木の芽のハーバルな香りがシノンやブルグイユのフレーバーと同調し、素晴らしいハーモニーを奏でてくれます。多くの注目を集めるロワール地方のカベルネ・フランから生まれるワインはまさにこの産地を代表する素晴らしい味わいを誇っているのです。
最近少しロワールのワイン飲んでいないなぁという皆様。ぜひ、こうした多様性溢れる魅力的なロワールワインをお試しください!
Contributor
ソムリエ