文化の交差点を体現する女性シェフ「ヨアケさん」

By Guillermo Neffke

「料理とは、常に真摯に向き合うべきものです。私たち料理人自身が情熱をもたなければ、人に感動を与えることなどできません。料理とは、真摯に向き合い、料理人の情熱を伝えたいという気持ちに突き動かされて生まれるものなのです」 

ヨアケさん(Yoaké San)の世界にお邪魔してみましょう 。

Yoake San

生まれる前、エコー検査の結果から「男の子だろう」と思われていたヨアケさん。パリ・ノートルダム大聖堂をのぞむ病院で朝の5時半に産声をあげた彼女が女の子だったことに誰もが驚いた。「両親は女の子の名前を考えていませんでした。父は、病室で私の顔に朝日が差したのを見て『朝日が差す、は日本語で何というの?』と母に尋ね、『夜明け』が私の名前になりました」(ヨアケさん) 

どうやら、意外性と詩的な感性は生まれた瞬間に授けられたようだ。 

 

ヨアケさんは16歳で、2年飛び級し法学部に入学する。法学部を選んだのは、父も兄も法学を学んでいたから。「ですが次第に、自分が幸せを感じていないことに気付きました。そして、異なる道、つまり料理の道を歩みたいと思うようになりました」。しかし、ヨアケさんの父親は娘の急な方向転換に対して理解を示さなかったといいます。「父はその時、『私たちの家系は知的労働に携わってきたのに』なぜ突然進む道を変えるのかと、強く反対しました。でも、時とともに柔軟になり、今は十分理解してくれています」 

 

現在、ヨアケさんはバルセロナを拠点に、美食で人々を魅了している。人気テレビ番組「トップ・シェフ」フランス版のファイナリストで、「旅の味(Le goût du voyage)」、「ヨアケの秘密(Les secrets de Yoaké)」などの番組で活躍した彼女が、初のレストラン「Yubi(ユビ)」を開く場所としてバルセロナを選んだことに、ファンの間には驚きが広がった。「Yubi」はフランスらしい洗練と日本のきめ細やかさが融合した美食の空間となっている。 

© Claudia Sauret

ヨアケさんと「Yubi Barcelona(ユビ・バルセロナ)」 

店名の由来について、「”Yubi”は、私と夫、娘二人の名前の頭文字を合わせた言葉で、日本語の『指』という意味もあります。指は料理をするうえで、とても大事な道具です。夫も指が重要なDJの仕事をやっているため、二人のストーリーが絡み合う名前でもあります。すべてを結びつける名前をなかなか思いつかなかったのですが、やっと見つけることができました」とヨアケさんは誇らしげに語ってくれた。 
 

レストラン「Yubi」の随所に、フランスらしさが見てとれる。ポイントを押さえたシャンパンのリスト、フランスワインの品揃え、フランス産品を使ったカクテル、フランス産食材、そしてフランス料理の技法。 

広島出身の母親とブルターニュ地方出身の父親を持つヨアケさん。そのきめ細やかな料理スタイルにレッテルは必要ない。7年間のテレビ時代を経て、更なる一歩を踏み出そうと、独自の解釈による日仏フュージョン料理をバルセロナの地から発信するまでに至った経緯は…。 

 

ヴァテールホテル観光ビジネススクールのパリ校でホスピタリティとケータリング・サービスを専攻。卒業後はミシュラン星付きレストランで腕を磨き、イビサ島でケータリングの会社を設立した。2人の娘のためにパリの喧騒を離れ、より家庭的で快適に暮らせる環境を求めて「Yubi」をバルセロナにオープンした。 

 

レストランの枠を超えた「Yubi」の世界 

美食の街バルセロナで、「Yubi」は二面性とその融合が感じられる場として知られている。レストランは「YU」と「BI」と名付けられた2つの空間に分かれており、どちらの空間も個性と魅力にあふれている。シェフのヨアケさんは、それぞれの空間の細部にまで自らのストーリーと情熱を巡らせ、唯一無二の美食体験を提供している。 

 

「『Yubi』は、フランスと日本という二つのバックグラウンドを持つ私自身の非常に個人的な思い、交錯する二つの世界観を、「赤」と「青」で表現した店です」とヨアケさん。青を貴重とした「YU」は日本の旅館の静けさを思わせる一方、赤を基調とした「BI」は1930年代のパリの縛りのない自由なビストロを彷彿とさせる。 

© Claudia Sauret

ベースはフランス料理 

ヨアケさんが「Yubi」で展開する重層的な料理に息づく、フランス料理の真髄と日本的な様式の融合は偶然の産物ではなく、彼女自身のバックグラウンドと料理の創造への情熱が織りなす美食体験の賜物だ。「『Yubi』では、私自身を形にした食体験を提供しています。一皿一皿に、私の人生に刻まれたストーリーを込めています。」 

 

フランス・ブルターニュ地方と活気にあふれた広島にルーツを持つヨアケさん。その料理は、フランスと日本の伝統の間で舞い踊るかのような、子供時代に食べていた家庭の味へのオマージュだという。彼女にとって、優雅で洗練されたフランス料理は、自身のストーリーを奏でる楽器のようなもの。盛り付けから複雑な味わいまで、ヨアケさんが創り出す料理にはパリのミシュラン星付きレストランでの修業体験が息づいている。 

 

舞い踊る味わい 

「Yubi」の料理は一つのスタイルにとらわれない、文化と味わいのフュージョンだ。 

食体験を通して日本のエッセンスを感じられる「YU」と、より自由な雰囲気を味わえる「BI」。 

ヨアケさんの料理は、どのように生まれるのだろうか。「私自身の体験、味わいや喜び、旅、感情などから生まれ、一皿一皿の裏にストーリーがあります」とヨアケさん。 

 

魅力的な料理を提供することにとどまらず、多様性、融合、探求を続けることが「Yubi」の哲学だそうだ。その二面性は見た目の美しさだけでなく、美食の豊かさを追求し、分かち合い、味わうことを提案している。  

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